発進時
発進時には2パターンありますので順番に説明します。
低負荷発進
こちらは通常時の発進となります。エンジンは停止したままモーターのみを使って発進させます。リダクションギアもローギアとなります。
高負荷発進
こちらは急加速、暖気運転中、充電中の時に発進した場合の図となります。エンジンでジェネレーターを回し発電しつつ、その発電した電気を使ってモーターを回し発進させます。
停止時のタイヤへの負荷は高いので、ほとんどのトルクがジェネレーターに流れていきます。こちらもリダクションギアはローギアとなります。
加速時
発進と比べタイヤ側の負荷が下がってきてるためエンジンのトルクはより多くタイヤに分配されます。速度が上がってくるとリダクションギアもトップギアになります。
車速が上がれば上がるほどエンジンのトルクはタイヤへ伝わっていきます。逆に言うと車速が低い場合エンジンはすべての力を出すことができません。トヨタによると120km/h以上でないとエンジンの最高出力を使うことができないようです。
巡行時
低速時
一般道など低速時にはこのようにエンジンを止めてモーターのみで走行します。電力が無くなった場合はエンジンを始動させ充電しながら巡行します。
高速時
高速走行時などよりパワーが必要な場合は必要最低限のエンジン出力で参加します。高速道路を一定速度で走行している場合、エンジンが掛かっていてもほぼエンジン直結と同じパワーの流れとなるためエネルギー効率は優れています。
減速時
回生ブレーキ
減速時は駆動用モーターから電力を吸い取ることで発電機として機能させます。発電量を超えるブレーキをかけた場合はディスクブレーキなどが作用します。
プラネタリーギア側も直結しているため回っていますが、ジェネレーターの通電を切ることで空転してエンジンは停止したままとなります(ジェネレーターはニュートラルと同じ様な動作をしています)。
エンジンブレーキ
エンジンブレーキをかける場合は、ジェネレーターを通電させて負荷をかけることでタイヤからの動力をエンジンに伝えてエンジンブレーキを機能させています。
上図は満充電時ですが、ジェネレーターで発電させた電力を使ってモーターを駆動して充電せずにすべての力をエンジンブレーキで消失させます。これはハイブリッドの中で最も効率の悪い減速になります。
後退時
THS-IIにはプラネタリーギアしか存在しません。エンジンは逆回転させることができないため、エンジンで後退することは不可能です。そのため、THS-II ではモーターを逆回転させて後退を行います。
まとめ
THS-II はスプリット(シリーズ・パラレル)式と呼ばれるハイブリッドシステムです。一般的にマイルドハイブリッドと呼ばれるものはパラレル式でエンジン主体で走行しつつもモーターがアシストする仕組みです。一方日産の e-POWER はシリーズ式と呼ばれエンジンは発電のみ行い、電力を使ってモーターのみで走行します。
パラレル式はあくまでエンジン主体のため回生ブレーキが十分にできなかったり、モーターのみで走行することはできません。一方シリーズ式はモーターのみの走行や回生ブレーキを掛けることができますが、必ずエンジン→発電→モーターの流れを通るため変換ロスが発生するほか高速走行時にはモーターが不得意な領域なため効率が下がります。
一方スプリット式では、低速時や減速時にはエンジンを停止させてシリーズ式と同じように効率よくモーターを扱うことができます。高速走行時にはエンジン出力をタイヤに直接伝えるためパラレル式と同じように効率よくエンジンを扱うことができます。スプリット式ハイブリッドはパラレル式とシリーズ式の長所を活かしたハイブリッドシステムです。
他方で低速時はエンジンの最大出力が扱えないため「面白くない」とかいろいろ言われているわけですが、それを解消したのがマルチステージハイブリッドです。マルチステージハイブリッドに関しては次の章「マルチステージハイブリッドの仕組み」で解説します。
制御方法 | |
---|---|
加速時 | ジェネレーターが充電するほど、またモーターが駆動するほどエンジントルクは直接タイヤに伝わります |
充電時 | ジェネレーターで充電するもののモーターの出力を減らし充電量を増やします タイヤよりジェネレーターに伝わるトルクが増えます |
放電時 暖機運転時(初動時) |
ジェネレーターで充電するものの、それ以上にモーターの出力を増やしエンジントルク以上の力を出します 初めて運転するときなど低温時にはこのモードでエンジンを保護します |
満充電時 | ジェネレーターでの充電量とモーターの放電量を一致させ、エンジン主体となります 高速道路巡行時などはこのモードで、エンジン直結とほぼ同等になります |
エンジンブレーキ | モーターでの回生ブレーキをやめてジェネレーターの発電を開始します 満充電時はジェネレーターの発電を使ってモーターを駆動させます タイヤから伝わる力はエンジンに流れてエンジンブレーキとなります |
モデルによっては THS-II でも疑似有段変速を持っていることがありますが、以下の制御になっています。
制御方法 | |
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ギアを上げる | ジェネレーターの発電量を一時的に増やし同時にモーター出力も増やすことで回転数を下げます |
ギアを下げる | 減速時はモーターの回生ブレーキを強くし(もしくは駆動を無くし)、ジェネレーターの発電量も増やすことでエンジンに力を流し回転数を上げます アクセルを踏んでいる場合はジェネレーターの発電量を減らすことで回転数を上げます |
ニュートラル 空走 |
ジェネレーターの発電を止めエンジンの動力がタイヤに伝わらないようにします |
補足:具体的な加速の流れ
例えば4代目プリウス(2015年)はこのような構成になっています。エンジンは72kWの出力がありモーターは53kWの出力があります。諸元表には載っていませんがジェネレーターの充電能力は23kWとなります。
発進時にはエンジンのパワーはほぼジェネレーターに流れるため、この図だとどう考えてもエンジンは23kW以上出せません。それ以上はジェネレーターで充電してくれないので...
つまり車速が上がって上図の様にジェネレーターに23kW、タイヤ側に残りの49kW流れている状態になって初めてエンジンの最高出力が出せるという場面が訪れます。これがおおむね120km/h以上だそうです。
エンジンの最大出力は必ずしも直接タイヤには伝わらないこと、車速によってモーター出力が落ちていくことなどからシステム最高出力は複雑な計算式になります。
ちなみにジェネレーターの発電量は23kWですがモーター効率が95%と仮に設定すると(2010年型から) 23kW x 0.95(MG1) x 0.95(MG2) = 20.8kW となります。