さて、トヨタハイブリッドシステムのシステム出力に関しては自動車の解説ページ「THS-IIのシステム出力の計算方法」には書きましたが、ほとんどの方はシステムトルクが重要だと思います。一方でTHS-II を採用している車種にはシステムトルクが公開されていません。。。なので論理的に計算して求めてみます。
実はシステムトルクが公開できない理由があったりします(エンジン車のトルクと性質が違いすぎるので…)
※馬力よりもトルクがなぜ重要なのかは「馬力とトルクの違い」をご覧ください。
※モーターのトルクカーブ、エンジンのトルクカーブが公開されていないため、あくまで参考として計算してみます。
まずは論文をチェック
下記の画像はマルチステージハイブリッドの論文です。左が今までのリダクション機構付きTHS-II、右がマルチステージハイブリッドシステムです。
※マルチステージハイブリッドシステムはシステムトルクが同じだとしても、最終的に車軸に伝わるトルクは大きくできるメリットがあります。後で解説しますね。
論理的に考える
THS-IIはエンジンとモーターを合わせてトルクを出します。もちろん単純な足し算です(何も制約がない場合)。
一方でエンジン出力とモーター出力を単純な足し算でシステム出力にならないのは、単にバッテリー出力の限界があるためです。もちろんシステムトルクも同じ理由で、モーターとエンジンのトルクを足しても求められません。ただ下記の通り最大トルクは低速時に出るため、今回バッテリー制限はあまり気にしなくて良いでしょう。
次にトルク特性を考える
モーターは定出力特性があるため低回転時に最大トルクを発生させます。一方で高回転時にはトルクが極端に下がるため、エンジンを合わせても低回転時(低速時)が最大トルクとなります。(論文でもそうなってますね)
いつも比較対象にしているクラウンハイブリッド(2.5L、3.5Lモデル)について考察してみます。
種別 | エンジン | モーター |
---|---|---|
2.5Lモデル | 221N·m/3,800-5,400rpm | 300N·m/0-3,300rpm |
3.5Lモデル | 356N·m/5,100rpm | 300N·m/0-4,200rpm |
エネルギーの流れ
これをもとにエネルギーの流れを図にしてみます。論文を見ると低速時のエンジン回転数は最大で3,500rpm程度らしいので、それを仮定として求めてみます。
2.5Lモデルの場合
種別 | 出力 | 備考 |
---|---|---|
モーター | 31kW/1,000rpm | 300N・m、1,000rpmから計算 |
ジェネレーター | 31kW(充電) | モーター出力分を発電する |
エンジンから | 49kW(80kW – 31kW) | 余った分は直接駆動へ |
時速20km/h程度を想定して計算しています。
その時モーターは1,000rpm程度となり、トルクは300N·mを発生させます。そのためモーターは31kWを出力していると計算できます。
エンジン回転数は論文によると3,500rpm程度ですのでA25A-FXSエンジンだと80kW、220N·mと予想。31kW は駆動用でジェネレーターを介すため、残りの49kWが直接駆動に回っていると考えられます。そうなるとエンジン出力のうち直接駆動は61.3%なので、220N・mを分配すると135N・mが直接駆動、動力分割機構を通るのでギア比の0.722を乗算すると97N・mが伝わることになります。
モータートルクを合わせるとシステムトルクが397N・mになります。ただしTHS-IIにはエンジン側に変速機が無いため、実際の加速はエンジン車の300N·mに近いと思います。
種別 | トルク | 動力分割機構後 |
---|---|---|
エンジン | 135N・m | 97N・m |
モーター | 300N・m | 300N・m※ |
3.5Lモデルの場合
種別 | 出力 | 備考 |
---|---|---|
モーター | 31kW/1,000rpm | 300N・m、1,000rpmから計算 |
ジェネレーター | 31kW(充電) | モーター出力分を発電する |
エンジン | 90kW(121kW – 31kW) | 余った分は直接駆動へ |
次に3.5Lモデルです。モーターは同じく1,000rpm、300N·mとなりますので31kW出力されています。エンジン側は8GR-FXSだと121kW、330N·m程度と予想します。同じく分配されると考えると90kWが直接駆動に加わり、直接駆動の比率は74.4%となります。330N・mが分配されるので245N・mが直接駆動、動力分割機構を通るのでギア比の0.722を乗算すると177N・mが伝わることになります。
モータートルクを合わせるとシステムトルクが477N・mになります。マルチステージハイブリッドはエンジンにも変速機が付いていますので、概ねエンジン車で言う477N·m相当そのままの加速になるかと思います。
種別 | トルク | 動力分割機構後 |
---|---|---|
エンジン | 245N・m | 177N・m |
モーター | 300N・m | 300N・m |
まとめ
THS-IIではシステム最大トルクとしては397N·m(2.5Lモデル)となりますが、エンジン側に変速機が無いため体感としてはもっと下がります。エンジンが常にトップギア状態みたいな感じなので、低速時にはほぼモーターの300N・mしか感じられないかと思います。
一方でマルチステージハイブリッドでは477N·m(3.5Lモデル)になりますが、最後に変速機があるためエンジンでの最大トルクと同じような性質があります。
具体的にガソリンエンジンでいえばどれくらいのトルクを出すのか、次の付録で求めてみます。
付録)車軸に伝わるトルクについて
最後に付録ですが車軸に伝わるトルクについて簡単に説明します。先ほどのマルチステージハイブリッドの論文が分かりやすいです。
変速機はトルクを変換させることができます。例えば発進時は回転数を下げてトルクを増やしています。
2.5LモデルTHS-IIの場合、モーター側にはリダクションギアとして3.900のローギアが備わっています。一方でエンジン側に変速機が備わっていません(動力分割機構が0.722のみ)。結果的に車軸に伝わるのは以下の表の通りとなります。
種別 | トルク | 変速後 |
---|---|---|
エンジン | 135N·m | 97N·m |
モーター | 300N·m | 1,170N·m |
システム | 397N·m | 1,267N·m |
結果的に車軸に伝わるトルクは1,267N·mとなり、エンジンで言うと325N·m相当しか出てないことになります(3.0L自然吸気エンジン相当、3.900のギアとして計算)。ちょっと発進時、エンジンが仕事してない感じしますね…
一方でマルチステージハイブリッドの場合、エンジンにも変速機(3.538)が備わることになります。
種別 | トルク | 変速後 |
---|---|---|
エンジン | 245N·m | 626N·m |
モーター | 300N·m | 1,061N·m |
システム | 477N·m | 1,687N·m |
結果的に車軸に伝わるトルクは1,687N·mとなり、エンジンで言うと477N·m相当となります(4.5L自然吸気エンジン相当)。マルチステージだとエンジンも変速機が加わるため、発進時もちゃんとエンジンが仕事してくれますね。
マルチステージは低速時にエンジンをしっかり働かせることが目的なので、このあたり見ていくとなるほどなぁって感じがします。
論文と若干の数値ズレはあるものの、ほぼ同じ感じになりました。トルクカーブが載ってないので完全一致は難しいものの、考え方はこれで合っているはずです。
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